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私が社会人になるころには、携帯電話やメールがかなり身近なものになっていましたから、仕事上の必然を除けば、手紙を書くなんてことは、本当に少なくなりました。
でも私には、とても大切な手紙があるのです。
それは、今は亡き、大学時代の恩師からの手紙。3通の葉書に、万年筆らしきインクで書かれたメッセージを、私は今も、大切に持っています。
ちょっとしたきっかけがあり、ライターという仕事に飛び込むことになった私。転職をするという旨を簡単にしたためて、先生に送ったことは記憶しています。
そして、・・・1週間くらいは経っていたのでしょうか。帰宅した私に、葉書が届きました。
そこに書かれていたのは、新しいスタートを切る私への、あたたかい言葉でした。“学生時代の精神(こころ)はしっかり肚に収めてくれていることと信じている”“余りムリしないで、うしろをふり返らずに頑張って下さい”・・・。
とても心強い、励ましの言葉でした。その言葉を胸に、私はスタートを切りました。もともと尊敬していた、大好きな教授でありましたが、この時は特に、先生のゼミ生であったことを、改めてうれしく感じました。
2通目は、年賀状です。
書かれていたのは、いつものシンプルな年賀状にほんのひと言。“仕事もいいが 心の余裕 忘れずに”。・・・でもそれは、私にとって大きなひと言でした。
当時・・・それは、私の周囲の人間が「心配なくらい痩せていってたね」と話す時期。今思えば、自覚していた以上につらい時期であったかもしれません。「いい年になってから“自分のやりたい仕事を”などと言って出てきておいて、泣いて帰るところなんてない」。そう思って無理を重ねていたのも事実でした。
そして、その私の余裕のなさを見透かすかのようなタイミングで・・・そう、見えていたのかもしれないと、思います。そんな、戒めのメッセージを先生が添えてくれたのは。
残りの1通は、その年の暑中見舞い。いつもの穏やかな文面を、“あなたも身体に気をつけて”と結んであったのは、先生の体調が思わしくなかったことも関係したのでしょう。
そして・・・、先生の娘さんという方から、喪中の挨拶状が届きました。
卒業してから、終ぞゆっくり会いに行くまもなく、去って行ってしまった、私の恩師。「誰がいないから、タイミングが合わないから同窓会の機会が・・・」なんてつまらないことを言っていないで、1人ででもさっさと会いに行っておけばよかったと、随分思いました。
その手紙は、一時、壁にかけたケースの中に飾っていたせいで少し色あせてしまいました。今は、小さなアルバムの中にしまってあります。絶対に無くしてしまわないように。
ふと迷ったときの、大切なお守りのひとつとして。
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